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ローン増加の背後には、その少し前から不動産価格が異常な上昇を続け、国民の不動産投資意欲が沸騰していたという事情があった。
当時、ITバブル崩壊の苦境から米国経済を救った英雄のように称えられたG氏の金融政策であったが、後になって「G氏はITバブルで崩壊した株式バブルに代わって、不動産バブルを起こしただけ」というような批判さえ受けるようになってしまった。
たしかに、FRBによって生み出された超低金利は、不動産を中心に金融の異様な過熱を生むことにつながったのだ。
今回の金融危機の引き金を引いたヘッジファンドなどの投資家は、市場から大量の低利資金を調達することができた。
FRBがつくり出した低金利の環境のおかげで、CP(コマーシャルペーパー)などの金融手段を使って巨額の低利の短期資金を調達することができたのである。
その資金を利用して、サブプライムローンなども組み込まれた証券化商品に投資を行っていた。
「レバレッジを利かせすぎた投資が問題であった」という言い方を耳にすることがあるかもしれない。
レバレッジとは挺子という意味であり、自分の持っている自己資金や自己資本をはるかに超える資金を市場から調達して、投資に回していく行動が「レバレッジを利かせた」投資だ。
こうした投資は不動産価格の上昇が続くかぎりは巨額の利益をあげつづけることが可能だが、いったん不動産価格が下がりはじめ、サブプライムローンの焦げ付きがはじまると、大きな損失につながることになる。
後になって考えてみれば、あれだけの低金利政策を続けていれば不動産バブルが起きないはずはないし、実際に不動産価格があれだけ上がっていれば、崩壊することを警戒しなくてはいけないのだ。
そうしたリスクを無視するがごとく異常な低金利政策を行ったG氏に、厳しい批判が集まっている。
この時期を振り返ってG氏は次のように述べている。
その少し前に日本が経験したデフレの教訓から、米国経済をデフレに陥らせないためにも、積極的に金利を下げていったというのだ。
皮肉なことであるが、デフレを避けるために行った大胆な金利引き下げ政策が不動産(ブルを起こし、破裂して金融危機が起き、米国はデフレの危機に直面することになってしまった。
金融工学が市場の性格を変えた
今回の金融危機には金融工学の手法が深くかかわっている。
サブプライムローンのようなローカルな住宅ローンを大量にまとめて証券化し、他の安全性の高いローンなどと合体させ、高度な金融手法を駆使して、投資の対象となるような様々な資産をつくり上げてきた。
「金余り」とも言われる投資資金の拡大の中で、世界中の投資家や金融機関がこうした証券化商品を購入してきたのだ。
金融商品のリスクとリターンの構造を深く分析し、より有効な投資方法を考察するという金融工学の手法は、経済学の世界では古くから研究が行われている。
金融工学に関連して取り上げられることの多いB理論を提起したFとMの両教授による画期的な論文は、すでに1973年に世に出て金融の世界では、より精徴な金融手法が開発されれば、投資家などの市場参加者は積極的に投資に利用するために、市場の動きも織り込んでしまうのだ。
経済学でよく言われることだが、「市場を出し抜くことはできない」のだ。
市場の動きをより正確に読んでより高度な投資をしようとすれば、市場のほうもその行動を織り込んで、違った動きをすることになる。
金融工学で証券化のリスクを把握した。
こうした理論的な考え方が実際の投資に積極的に活用されるようになった大きな要因としては、コンピュータなどの情報通信の技術革新が進み、低コストで大量のデータ処理が可能になったことが大きい。
その意味では、デジタル革命が金融革命にも大きな影響を及ぼしたと言える。
一般的に、高度な手法でリスクとリターンを分析し、投資に活かすことは好ましいことのはずである。
ただ、社会科学である金融工学は、自然科学とは決定的に違う点がある。
金融工学の発展は、市場の性格を変えてしまうという点だ。
宇宙を観察したデータを高度な理論で解析すれば、惑星の軌道予測などがより精綴になる。
だが、そうした発見があったからといっても、当然ながら、惑星の動きが変わるわけのだ。
このように金融工学とは所詮は不完全なものである。
過信した結果が、今回の多くの金融機関やファンドの破綻につながったとも言える。
ただ、だから金融工学が悪いものであるという短絡的な議論をしてはいけない。
金融工学の手法は、ある意味では原子力エネルギーの開発に似た面があるのだ。
原子力は間違って使えば人類の破滅につながるような結果を招く。
正しく活用すれば、多くの利益を人類にもたらす。
結局、金融工学も使い方によって毒にも薬にもなる。
後の章で詳しく述べるが、今回の金融危機の重要な教訓は、金融工学そのものが問題ではなく、金融工学を理解した上で、市場が暴走しないような管理やチェックの枠組みを構築することこそが重要であるということだ。
金融が高度化すれば、人々に多くの恵みをもたらす。
グローバルマネーの展開には問題点もあるが、グローバルマネーが積極的に投資を行ったからこそ、少し前には極貧と飢えに苦しんでいた何億人もの中国人やインド人たちが経済発展の恩恵を受けることができたのだ。
サブプライムローンは問題であることは言うまでもない。
だからといってそういったものを全面否定してしまえば、貧しい人は家を購入するな、ということになりかねない。
なぜ多くの貧しい人がリスクを冒してまでサブプライムローンを借りたのかと言えば、家が欲しいという強い欲求があったからだ。
社会全体のリスクを管理しながらも、そうした多くの人の願いを実現することも金融工学の重要な役割であるのだ。
金融工学のパイオニアであったRとMという経済学者が、1997年にノーベル経済学賞を受賞した。
彼らがノーベル賞を受賞したがゆえに、なおのこと金融工学は注目されたわけだ。
同じノーベル賞でも、ノーベル平和賞の受賞対象となったバングラデシュのM氏によるG銀行のマイクロクレジット(マイクロファイナンス)は、小口の融資に分割することで、全体のリスクを抑えながら貧しい人たちにビジネスの機会を与えるという素晴らしい成果を上げている。
これだって、立派な金融工学の手法である。
金融工学に関連してもう一つ注目されているのが、不動産の証券化という手法である。
不動産の証券化とは、本来は、住宅投資と不動産経営のリスクを分離して不動産投資を促すと同時に、国民の多くに不動産投資の機会を与えるというものである。
社会的にはそうした手法の意義は大きい。
ただ、今回のサブプライムローン問題では、証券化が込み入ったプロセスを繰り返し、二次証券、3次証券と、投資家にもリスクを判断できないような複雑なものと化してしまった。
社会全体としてリスクをきちんと管理できないような、肥大化した不動産の証券化は問である。
ただ、もって、すべての不動産証券化を問題視するような姿勢があって1990年代に日本は、厳しい不動産バブル崩壊に直面した。
経済に与える影響という意味では、今回の米国の問題と同じくらいの大きさである。
当時の日本の不動産市場の問題は、不動産の証券化とはまったく関係ない形で起きた。
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